役に立たないことだけやっていきたい人生だった

高校生の頃、僕は誰の役に立たないことをしていたいなぁと思っていた。
今は普通のサラリーマンになってしまったし、ちゃんと毎月お給料を貰っているから、きっと役に立ってしまっているんだろうなぁと思うと、僕の夢は叶わなかったわけだ。


僕はいわゆる「エスカレーター」と呼ばれる付属の学校で、中学・高校を過ごしていた。
小学生の頃、まだ将来のことなんて良くわからない僕は両親の進めで中学受験をし、絶対に受からないからとタカをくくっていた中学に合格してしまってこのエスカレーターに乗ってしまった。
そのまま、学力が特別良いわけでもなく、むしろ下から数えたほうが早いぐらいの成績で中学、高校の6年間を過ごしたけれど、幸いなことに根が真面目……というか、先生のウケが良いタイプだったため、成績は優秀で大学への推薦もどこでも選べる状況になっていた。

 

でも、同じ状況だった人なら分かると思うけど、先生ウケが良いけど特別頭が良くないタイプって、学部選びにすごい困るんだよね。自分が優秀じゃないの知ってるし、かといって尖ったタイプでもないから。
それで、色々と自己分析した結果、「あぁ、世の中の役にたたない事をしたいな」って思った。
それで選んだのが芸術学部
日大の系列の高校だったから、日芸ってところで、割とその筋じゃ有名なんだけど、一般人とかには無名だし、ましてや普通の高校生にはそれがどんな大学なのか全然わからなかった。
(なぜか、日本大学芸術学部の卒業生は、学歴を聞かれると「日大」じゃなくて「日芸」と言うのだ)

 

推薦の成績は優秀だったから、「法学部」だろうが「医学部」だろうが、どこでも推薦で選びたい放題だったのだけれど、法学部も医学部もめちゃめちゃ世の中の役に立ちそうだし、経済学部だってなんだかすごい役に立ってそうだし、文学部はあんまり役に立ってなさそうだけど、芸術には負けるでしょって感じがしたって理由だけで芸術学部に進むことを決めた。
小説を読むのが好きだったし、下手くそなりに短編小説を趣味で書いたりもしていたから文芸学科ってところを選んでみた。
先生にはめちゃくちゃ反対された。
どうやら、他の学部なら推薦でストレートに入れてもらえるけれど、芸術学部だけは実技と面接があって、どんなに推薦成績が優秀でも落ちることが多いらしい。

 

面接の練習もしてみた。
「どうしてこの学科を選んだんですか?」
世の中の役に立たないと思ったからです。
うん。落ちるな。
でも、正直な気持ちだったのだ。
なんだか、世の中の役に立つ仕事はかっこ悪いと思う。
なんだか、必死に生きちゃってる感じがして。
それよりも、世の中にあってもなくても誰も困らないし誰も死なないような、音楽とか美術とか小説とか、本当にこの世の無駄みたいな部分を作って、それで生きていけたらめちゃめちゃ良いって思ったのだ。

 

蓋を開けてみれば、文芸学科は不人気学科で、定員割れで全員合格していたといオチもあり、似たような人間のクズみたいな仲間と4年間の大学生活を過ごして大人になった。
あれからもう何年も立つけれど、未だに誰の役にも立たないことをやっていきたいって気持ちはずっと胸の奥に眠っている気がする。
就職率が死ぬほど低い日芸出身なのに、ちゃんと新卒で入社できて仕事も続いているし、それなりに役職ももらえてる。
小説家にはなれなかったけれど、漫画原作の仕事で出版業界の片隅では生きて行けている。
同級生に比べたらきっと成功している方なんだろうけれど、未だに「役に立たないことをやりたい」っていう気持ちは満足できてない。


そんなことの一つとして、ブログを始めてみた。
世の中の役に立たない話をもっともっとしていこう。